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(前回からの続き)

駅へ向かう途中。

Yが路上で、感情を押さえきれずに、また泣き出して、立ち止まってしまった。
もはや励ましの言葉も無意味な様相だ。

こうなったら、泣き止むまで待つしかない。

俺はそう思って、もう余計な言葉もかけずに、ただ黙って側に立って、Yのアタマを撫でてやった。

すると、Yが突然、俺に自分の体重を預けてきた。
不意な状況だったが、俺はYを支えるために、手を伸ばして、その体重を受け止めた。
その刹那。
Yが顔をこちらに向けて、抱きついてきた。

さらに、驚いたことに、なんとYのほうから俺に唇を近づけてきたのだ。

ソフトバンクのCMじゃないが、予想外の展開である。

おおおおお
こ、これは。。

Yが相当酔っ払っているとはいえ、まさかの展開である。
思わず面食らいながらも、

お別れのフレンチキスか?

と思って唇を軽く重ねると、スルスルとYの異物が俺の口の中に入って来た。

おおおおおおおおお
こ、これは。。

tongue! tongue!! tongue!!!

TOEIC300点の俺のアタマの中に、1つの単語が木霊した。

Yの予期していなかったその行動に、俺の頭は一瞬でグラグラになった。
アタマの中では、「まさか、まさか」がグルグル廻る。

しかし、本当の「まさか」はその1秒後にやってきた。

こうなったら、据え膳喰わぬはなんとやらということで、俺のほうも「モード」に入ろうとした矢先。
何か鼻の下あたりにヌメッとした感触が伝わった。

Yの唾液ではない。
鼻をぬぐうと、それは、鼻血だった。

ま、まさか、こんなときに。。

しかも、亀仙人ばりの大量の出血だ。
焦って目を開けてYを見ると、俺の心臓は止まりかけた。

なんと、Yの口元に俺の鼻血がべったり付着していたのだ!

もはや接吻どころじゃない。

この感触を幾時間も味わいたい気持ちも吹っ飛び、俺は、わずか数秒でYの唇から離れた。

幸い、Yは酔いと涙もあってか、俺の鼻血が自らに付着していることにはまだ気が付いていないようだ。
虚ろな視線で俺のほうを見ている。

俺は、必死にYに気づかれないように自分の鼻をぬぐって、そして、強烈な勢いでYをハグした。

一見すると、男の力強さと体温で、涙で明け暮れるYを安心させるためのような強烈なハグだったが、
その実は、俺は自分のシャツでYについた口元の鼻血を拭い去ろうとしていたのだ。

彼女のアタマを撫でるふりをして、ゴシゴシとYの顔を自分のシャツに押し付けた。

鼻血はなおも止まらず、俺はズビズビと鼻をすすっていたが、これは、もらい泣きとして取ってもらえないことはないだろう。

そうして、1分ほどの強烈なハグの後、Yの両肩を握り、身体から離した。

頼む!取れてくれ!神様!

恐る恐るYの顔を見る。

おおおおおおおおおおおお!
こ、これは。。

しまった!!!
ひげみたいになってる!!

神はとっくの昔に死んでいたのだ。

それどころか、強引に口元をこすりつけたせいか、血液が凝固し、Yの美顔が、ひげ男爵ばりの顔つきになってしまっている。

やばい。。
本格的にやばい。。

もう、こうなったゴシゴシと水洗いでもしないと落ちないだろう。

どうする??
どうするっ????

俺は、また自分の鼻から溢れそうな鼻血を、必死の“鼻すすり”でガードポジションよろしく防御しながら、アタマを量子コンピューターを超える高速回転にして考えた。
もしも、このときのスピードで5分間宇宙について思索出来たならば、宇宙のあらゆる真理を解明してしまうのではないか、というくらいの高速回転だった。

そうして、全力であらゆる選択肢を浮かべてシュミレートして、出した結論がこれだった。

バックレよう。

そうだ。それしかない。
この状況を“男前”に逃れる術は他にはあり得ない。

俺はYに言った。

「キミに会えて良かった。今日は帰ってゆっくりお休み」

表面上だけ見たら、その場の性欲や勢いを度外視した、ズバ抜けた大人の発言だ。
男に振られたことがないと常々口にしていたYだっただけに、たぶん、自分の思い通りにはならない男も世の中には存在するんだと、(無駄に)知らしめた瞬間だったのではないだろうか。

こちらの本心はと言うと、わずか数秒の接吻で鼻から興奮の出血を垂らしめている姿を見られるのは、あまりに恥なので、とっとと別れたかっただけなのだが。

Yがこの俺の言葉をどう受け取ったのかは分からない。
ただ、俺の抱擁で一応は泣き止んでくれたのは間違いない。

俺は、
「駅まで送ったら、別れたくなくなるから、今日はここでお別れするよ」
と、本心らしからぬ言葉を口にした。

Yは、それを聞いて、頷いて一人で駅へと向かっていった。

そうして、彼女の姿が見えなくなるのを待って、俺は、すぐさまポケットからティッシュを取り出し、鼻に詰めた。

一安心の瞬間だ。

ふー。

俺は、一息ついた。

しかし、俺は、このまま歩いて家に帰れば済むが、Yは、これから電車に乗らなければならない。山手線なら、時間的に満員だ。
まさか、鼻血で自分の口元がひげ男爵みたいになっていると知らずに。
ルックスには相当の自信のあるYにとって、これは相当の屈辱であろう。

もしも、気づいたら、どんなにか激怒するだろう。

俺は、それを考えたら怖くなり、念のため、携帯を取り出し、2、3日着拒しておくことにした。

何かあったら、ほとぼりが冷めてから謝ることにしよう。大体酔った勢いでキスしてきたのは向こうだし、俺には責任がない(はず)

それにしても、振り返ってみると、勿体ない状況だった。

俺がノーベル平和賞のマータイさんだったら、「モッタイナイ!!」と国連総会で演説しているところだ。
船場吉兆だったら、間違いなく使い回ししてでも、次の客に出している。

人間。チャンスはそう多くはない。俺のようなキモ面キモキャラな男なら尚更だ。
今に思えば、千載一遇のチャンスを逃したようなものだったかもしれない。

そんなことを考えながら、溢れる鼻血をティッシュで懸命に押さえて、下半身に注意を向けると、股間がぐっちょり濡れていた。

なんと、20歳の小娘の酔いにまかせたわずか数秒の唇の触れ合いで、カウパー液がドバドバ出ていたのだ。
情けない。
とはいいながら、鼻血が止まるのを待った俺が、すぐにビデオボックスに駆け込んで、一人で処理したことは言うまでもないだろう(言うことでもないだろう)

コメント

いやぁ~、面白い!!!
っといったら失礼に当たってしまうかもですけど・・・

でも、その女の子の行く末が気になります!
山手線でどうなったのか!?

2008/05/14 15:31:49 | キャバ男

本当に勿体ない事をしましたね。

鼻血をモノともしなければ、今頃は違った独眼鉄だったのでしょうなぁ~

2008/05/15 10:49:12 | Jigen

>>キャバ男さん
ホント、どうしたんでしょうねえ。。何げに分かりません。。

>>次元さん
それゆえに独眼鉄とも言えます。しょーもないですが。

2008/05/16 2:09:21 | キャバクラ独眼鉄

そんなポジティブな成功談が鉄さんにもあったんですね!
着拒しなければ自分の鼻血かと思ったかもしれないのにぃ。もったいない!

2008/05/16 22:34:55 | つかさ

銀座のキャバ嬢しています。
オモローです。センスがあります。w
私だったら鼻血事件、その場で言ってくれてもよかったかなぁ。
逆にシャイボーイっぽくて好き。かも。

2008/05/17 15:00:39 | TIARA

>>つかささん
終わってます!

>>TIARAさん
ありがとうございます。
でも、俺はもはやボーイじゃなくて、単なるおっさんです。残念です!

2008/05/17 15:51:12 | キャバクラ独眼鉄

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