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その床屋は、俺の顔を左右から眺めて、こう言った。

「揉み上げの長さが左右違いますが、どうしましょう?」

な、なんだと?!

俺は、坊主でありながら揉み上げだけにはこだわりを見せている。それはルパン三世やエルビスに憧れているわけではなく、暴漢に襲われたときに、揉みあげを武器に戦おうと思っているからだ。(ただ、実際にどう戦うのかは想像におまかせする)

だから、揉み上げだけは、いわゆる坊主に合わせた長さではなく、黄金律に従った適度な顔のバランスの比率のもとに長さを整えていたはずだった。

そんな俺のセンチでナイーブな揉み上げが非難されたのだ!

まさか、この床屋は俺のハンサムに嫉妬しているのではないか??

幾ら俺がハンサムだからと言っても、簡単には納得できない。

疑心暗鬼になった俺は、目からナマズが出んばかりに目を見張って、鏡を見た。

右の揉み上げ見て、左の揉み上げ見て、もう一度右の揉み上げを見た。

踏切を渡るときの仮免ドライバーばりに右左右と確認して、言われてみれば長さが違うかもしれないことに気がついた。

俺は思った。

もしかしたら、この鏡が実物の俺に嫉妬して嘘をついているのかも。

鏡を信用してはいけない。
いつも物事を逆さまに見ているヤツらだ。

だから、俺は基本的に鏡を見ない。
たまに見ても、速水もこみちばりにハンサムであるはずのリアルな俺を映し出すことなく、猿とマッチ棒を足したような貧相な偽物の姿を映し出すからだ。

しかし、ここはこの床屋の揉み上げに対する疑問に返答しなければならない。

幾らハンサムだと言っても、揉み上げの長さが違うという指摘をそのまま受け入れたのでは男のプライドが廃る。

俺は一瞬、澄ましたクールな表情で、

「わざとだよ」

と答えようとしたが、あまりにも白々しい上に、納得されて放置されても困ると思い、こう答えた。

「ははは。今朝はカノジョに剃ってもらったからなぁ。剃り過ぎたかなぁ。はっはっはっ」

×××
我ながら驚くほどインテリジェンスな台詞である。口にしておきながら、背筋が寒くなるような空しさを押さえ切れない。

それを聞いたヘア職人は、どこか物悲しく対処に困ったような笑みを浮かべたが、これはまさに「納得」と言った表情だったのだろう。

問題が解決し、ヘア職人は、何やら見たこともない機器を取り出した。
小型のバイブとカミソリを足したような、その器械は、いわゆる女性向けの眉剃り器らしく、「揉み上げ」を切るのにも便利だという。
振動で切るので、カミソリと違って、細かなカットに便利だそうだ。

俺が、関心してると、そのヘア職人は途端に饒舌になって、それがどこに売っているのか、応用でこの店でどう使っているのか、自分がヘア職人になって何年になるとか、最近のヘアスタイルの流行だとか、量子コンピューターにおける近未来だとか、ケインズ学派とマネタリスト合理的期待学派の対立問題などと話が膨らんでしまった。

気の良い俺が、彼の話をさも興味ありそうに聞いてしまったためと、この話好きのヘア職人に、俺の後に客がいなかったというのも重なって、なんと、平均で予想10分、坊主なら5、6分と期待していた俺のヘアカット時間がおよそ20分近く、のんびりとやられてしまったのだ。

当然、打ち合わせには遅刻。

ハンサムな俺が頭を下げまくって謝らなければならなかった。

ただ、素直に頭(こうべ)を垂れる俺の揉み上げが、キラリと光るほどに整えられていたことは、特筆に値するはずだ。

(了)

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俺は自他ともに認めるハンサムマンとして有名だが、そんな俺が昨日、床屋へ行ったときの話しだ。

ただでさえハンサムな俺が、ヘアスタイルにまで気を使ったら、もう目も当てられないほど町中から注目を浴びてしまうことは間違いない。
なので、俺は、このハンサムぶりをウィットに隠すべく坊主頭にしている。

しかも、俺が行く床屋は決まっている。
その名も、QBホーム。

なんと1回10分1000円という激安でヘアカットしてもらえるのだ。

俺は、このQBホームに月2回定期的に通っている。

坊主ゆえにリンス(シャンプーすらも石鹸でまかなう)もいらず、ドライヤーもいらず、整髪料もいらない。月々ヘアにかける一切合切の料金2000円。
まさに「環境」がテーマの21世紀に相応しいヘアスタイルといえるだろう。

そんなハンサムな俺が、忙しさのあまり三週間も頭髪をカットせずにいたところ、無性にハンサムさが増して世間の注目を浴びる気がしたので、俺はかなり大事な仕事の打ち合わせ30分ほど前だというのに、QBホームに入った。
ところが運の悪いことに、先客が数人。
待たなければならない。
ただ、30分のあいだに先客は4人。すでに半分切り終えてる客が2人。カット職人のほうは2人。
俺は、逆算にして、「いける」と思った。
このQBホームから打ち合わせ場所まではわずか数分。15分後にはカット台に座れて、25分後にはカットが終わっているだろう。
スーパーコンピュター並の速度で緻密な計算をした俺は、1000円払って、座って待った。

ところがである。

ちょうど昼時ということもあってか、カット職人が一人、担当している客のヘアを切り終えると、休憩室に入ってしまったのだ。
残された時間は25分で2人。

こんなことあるのか??

俺のノーベル賞もののスーパー頭脳でも、「お昼だから、ご飯を食べに休憩する」という選択肢は気が付かなかった。

さすがの俺も、一瞬焦ったが、ここは漢(おとこ)が試されるときだと、慌てることなく、引き続きハンサムなまま自分の出番を待った。
坊主ゆえに5分で終わったこともあるので、ギリギリ間に合うという更なる計算をしたのだ。

で、泰然自若と、時間が来るのを待った。
さすがは、俺の頭脳。
25-10×2=5
という、予想した通りに俺の番が来た。
この計算式を解読できるのは、アインシュタインと俺くらいなものだろう。

残り時間5分。
正直、このあとの重要な打ち合わせを考えると気が気じゃない。

だが、ここで慌てて「急いでくれ!」などとオタオタと要望すると、ハンサムが廃る。

俺は明鏡止水の気持ちで、「丸めてくれ」とだけ申し出た。

「了解しました」といったヘア職人が、バリカンで俺の頭を刈り始める。

滑るように動くバリカンが肌に心地よい時間だ。

この調子で順調に行くと、打ち合わせにはギリギリ間に合うかもしれない。
数分の遅れなら、俺のハンサムさゆえに「ギャルたちからサインを求められた」とでも言っておけば、相手も納得してくれるだろう。

そんな安らかな気持ちでいたときである。

ヘア職人が手を止めると、「あれ?」と言って首をかしげたのである。

(以下、次号に続く)

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時として、人間は、唐突に訪れたピンチの中で、リアルな自分を突きつけられることがある。

昨日。
俺は、ある種の究極の選択を迫られたので、無駄に書いておきたい。 

俺の生活は、 夜中の2時過ぎまでダラダラと酒を飲み続け、昼は目覚ましもかけずに、12時過ぎまでグーグー寝てたりする。
で、大概前の日の深酒がたたって、膀胱がパンパンになっているので、目が覚めると同時にトイレに駆け込む。

その日も、まずは“男”としての使い道を失った哀れな息子を握りしめ、トイレに駆け込んだのが目覚めだった。

とりあえず、すっきりとして、コーヒーを涌かして、メールをチェックしたりしていると、腹痛を覚えた。

昨日の深酒は、お腹にまで副作用を及ぼしたようだ。

再びトイレに駆け込む。

ところが、様子がおかしい。
先ほど、起き抜けにトイレに行ったのはかれこれ30分前。
とっくに止まっていてもいいはずの水が、流れっ放しになっていた。

なにげに自宅のトレイはビデ付きの自動脱臭、自動洗浄システム完備なのだが、感度が良過ぎるのか(?)たまーに勝手に脱臭、洗浄を行うときがある。

今回もそのせいかと思って気にせずに便座に座ると、“華”の香しいブツを放出した。
そして、拭くべき部分も拭き、洗浄しようとレバーを引いた。

ところが。

レバーにいつもの力がない。
幾ら引いても、水は引き続き、チョボチョボと弱々しく流れ続けているだけで、“ブツ”を視界から消し去るほどの圧力には増してくれなかった。

これは一体?!

レバーを押しても引いても少しも変化は無く、タンクのどこかが故障したようだった。

過去にもこういった経験はあった。

タンクを空けてレバーのあたりの重りをいじれば簡単に戻るはず。

と、いざタンクのフタを空けた。

ところが!

中を見ても、原因は皆目分からない。

しかも!

フタを空けた拍子になにか外れたのか、水がジョバジョバと外に流れ出てきた。

俺は焦った。

レバーは相変わらず、空気を掴むように圧力を感じることがないのに、水は勢いを増し、瞬く間に、トレイの中は水浸しになってきた。

やばい!
早くなんとかしないと部屋中水浸しだ!

俺のアタマの中に、「クラ~シアンです。ごひゃーく、ごひゃく♪」というメロディが流れて来た。

しかし、ここで問題があった。

今さっきぶっ放した俺の“ナパーム弾”が流れずに、便器の中に鎮座したままなのだ。
仮にクラシアンを呼んだとして、“ナパーム弾”付きで水浸しのトイレで作業をさせるのは気が引ける。

俺は、もう一度水漏れの原因がどこにあるのかキョロキョロイジイジしてみた。

それでも全然分からない。
水はさらに溢れ出て、もうすぐ洗面所にまで到達しそうな勢いだった。

これはシャレにならない!

俺は、意を決してクラシアンを呼ぶべく、電話機に向かった。

最悪、爆弾処理班よろしく、“不発弾”をオマタで救い上げ、クラシアンが到着する前にどこかに投げ捨ててくるのも辞さない気持ちだった。

そして、受話器を上げ、あのメロディを思い出した。

ところが・・・
「クラ~シアンです。ごひゃーく、ごひゃく♪」
のメロディーの後半の500500は分かるのだが、その前の「クラ~シアンです」の部分が焦りまくる俺のアタマの中では数字に変換できない。
9ラ?4あ?ん??

一体幾つなんだっ?!

ネットで調べるか、104で聞くか、などと考えながら、もう一度トイレを見に行くと、水がトレイの床を全面的に占領し、アッという間に洗面所にも到達していた。

まさにダムが決壊したがごとく勢いである。

わずか3分でこの状況では、仮にクラシアンを呼んだとしても、到着するまでの30分で、洗面所どころではなく部屋中水浸しになっていることだろう。

この時点で俺のアタマは完全にパニクり、

きーっ!

とか、

へなへなぱぁ!!

とか訳の分からない叫び声を上げつつ、トイレと電話機を何度もウロウロオロオロと徘徊を繰り返した。

まさに“いざ”というときに、自分がいかに勇敢で何事にも動じずに対処できるかを自覚する瞬間だった。
社会を代表するものの資質満点の立ち振る舞いだったといえるであろう。

2007-08-07

凄い勇気。

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先月だか、「余命1ヶ月の花嫁」という番組が放映されたのだが、見た人はいるだろうか。
テレビで見損ねたのだが、ネットで流れていることを知って見た。
美しく、とても優しく、24歳の若い女の子が、人生これからというときに、癌によって早過ぎる死を迎えるまでの闘病記だ。
哀し過ぎて見ていられない。俺は号泣した。

しかし、その最期の1ヶ月の間に見せた、本人、恋人、父親、友人たちの勇気。

それはもう言葉では言い表せないくらい凄いものだった。

俺は思った。

健康に生きている者たちは、一日たりとも人生を無駄にしている暇なんてないのだ。

そう思って、昨日、ビデオボックスに向かった。

生きている最もな実感。

性欲。

沸き上がる性欲を解消する方法を模索した結果、やはりまたビデオボックスであったのだ。

なんかエロくて抜ける作品ないかなぁ。

そう思って陳列棚をウロウロしていると、一人の大きな旅行カバンを引きずった中年の男が店に入って来た。

どこかの出張帰りだろうか。早足で店内のある棚に向かった。もう抜きたくて抜きたくて仕方がない様子だ。

そして、お目当ての作品があるはずの棚を物色し出した。

ところが、その棚には何もなかったのか、何も手に取らずに、男は受付へとまた早足で向かった。

そして、店内中に響き渡るような大きな声と早口で、こう口にした。

「うんこ便所の続編、ありますか?!」

俺は思わず振り返ってしまった。
他の客もあまりの唐突の出来事に男に振り返る。

店員が、何が起こったの分からないくらいの唖然とした表情をして答えに窮している。

「うんこ便所ですよ!うんこ便所!その続編ありますかって!」

男の声は明らかにイラついていた。

出張帰り。
男はどうしても、それも、いち早く見たかったのだ。
「うんこ便所」というAVが。

俺は当然として、店員すらも店内どころか全地球上に、そのような直情的で限界まで下品なタイトルの作品が存在していることを知らなかったようで、店員は、小さな声で「ないと思います」と困ったように呟くのが精一杯だった。

すると、男は舌打ちして、

「うんこ便所ないのかよ、うんこ便所!」

と独り言を喚きながら、店内を後にした。

よほど見たかったのだろう。うんこ便所。。

ちなみに、ネットで検索かけると確かに、そのようなタイトルの作品は存在する。
しかし、その本編を目にする事は、ほとんど全人類の人間にとって一生ないだろう。
そう思うと、ほんの少しばかり寂しい気持ちも沸き上がった一日だった。

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ビデオボックスというところがある。
何をするところかと言えば、アダルトビデオを借りてテレビのある小さな個室に入る。
それだけのところだ。
女性が出てきたりはしない。

では、中で何をするのか。

男が一人、アダルトビデオを持って個室ですること。
他の人間の姿は見たことがないが、
少なくとも、そこで、学術論文を書いたり、ピザの宅配を取ってパーティーをしたり、オリンピックに出るためのウエイトトレーニングをしたりはしない。

基本的に想像する通りのことをする。
そんなところだ。

先ほど。

声を大きくして言うほどのことではないので、小声で言うが、
俺は、とあるビデオボックスに行ってきた。

何でそんなところ行くの?

と聞きたくなる人もいるだろう。

それは、俺がモテないからとか、彼女がいないから、だとか、そんな理由からではない。

俺がビデオボックスに行った理由。

それは、俺が「男だから」だ。

男だから、俺はビデオボックスに行ったのだ。

ビデオボックス。

今は、ビデオテープではなくDVDの時代。
俺は入った店で、1000本はくだらない品揃えの中から、物色していた。

とりあえず、速攻、夏目ナナの新作に手を伸ばした。

ぐふふ。これさえあればっ

あとはテキトーである。
ケースをパッケージから抜いて手当たり次第、計5本ほどカゴのなかに入れた。

それを持って受付に行く。
ところが、次の瞬間、俺の差し出したカゴを見た店員が顔をしかめた。

「すいません、パッケージごとお持ちになってもらえますか」

俺は、

マジかよ!
家の近くのTUTAYAは、パッケージを持っていったら逆に怒られるのに!

などと言いたくなったが、その店にそれぞれルールってもんがある。

大体、こんな店で無意味に抗議して必要以上に目立ったところで何の得もない。

俺は、一つ一つパッケージを回収しようと、DVDの陳列棚のところに戻った。

31歳独身彼女なし(ブサイク)が、ビデオボックスで店員に怒られてトボトボAVのパッケージを探している姿。
我ながら間抜けにもほどがある。
ホントに勘弁してあげて欲しい仕打ちだった。

ところが、ここで問題が起こった。

夏目ナナ以外は適当なセレクションだったため、自分の選んだものがどこの棚にあったかアッという間に記憶から消えていた。

やばい。

俺は焦った。

こんな軽く1000本はある中から自分が選んだ残り4本を見つけようなんて、海岸に落としたコンタクトを探すようなもんじゃないか!

などとウロウロしていると、俺の背中が哀れに思ったのか、店員の一人が一緒になって探してくれようとしている。

しかし。

それはそれで問題があった。

このとき借りたDVDが夏目ナナ以外、尋常じゃないタイトルのものばかりだった。

さすがは従業員とばかりに、次々と探し当てる。

「『電マ戦隊』ありましたよ」
「残りは、『人妻恥辱レイプ』と『鼻吊りレズファック』ですね?」

とか、他の客の前で声を出して読み上げる。
訝しげな冷たい視線を他の客が送ってくる。

違う!違うんだ!夏目ナナ以外は、仕事の参考で借りただけで、歪んだ性癖ゆえに借りようとしたわけではないんだ!

などという言い訳を声に出している暇はない。

俺は最後の一本を血眼で探した。
店員より先に見つけないと大変なことになる。

俺は、本気で焦った。

なぜなら最後の一本は犬の獣姦モノだったからだ。
タイトルは、『犬とYシャツとわたし』(違ったかも知れないが)

いや、まじでこんなもの、性的には興味ない。

でも、犬と人間がヤっているところなんてたまには見たいじゃないか!

という、どうしようもない好奇心がこんなにも馬鹿馬鹿しい形で自分に跳ね返ってくるなんて!

しかもだ。
こんなどうしようない場所で、さらに俺の身に、思いもよらぬ展開が待ち受けていたのだ。。

俺が必死で最後の1本を樹海の中から探し出し、安堵のため息とともに、再度受け付けへ向かったときだった。

入り口の自動ドアが開き、茶髪の若者が入ってきた。
その後ろには一人の女が立っている。
なんと女連れでビデオボックスに入店してきたのだ。

そして、場違いな来客の乱入に足を止めた俺を尻目に、若者は、

「すいませーん。ここって朝まで泊まれたりするんですかぁ?」

と、すっとんきょんな声で店員に聞き出した。

店員がその答えに頷くと、さらにそのバカそうな若者は、質問を続けた。

「俺たち、AVとか、そういうの興味ないし借りないんで、ただ泊まるだけで良いんっすけど、ぶっちゃけここ幾らなんっすかぁ?」

俺は、その言葉を耳にしたとき、瞬間的に、腸(はらわた)がねじれる思いがした。

女連れでビデオボックスに来て、AVに興味ないだぁ?!
ここをどこだと思ってるんだ、コンチクショー!
大体、料金聞くのに、「AVに興味ない」なんて枕詞必要ないだろうっ!!

全くなんて差だ。
男としての差、ここに極まれりな瞬間だった。

片や脳みそは足りないくせにAV不要の女連れ。
一方、31歳彼女無し(ブサイク)は、彼らが興味がないと断言したAVに、良い年こいて興味津々の上に、そのAVすらスムーズに借りることすら出来ずに、惨めにもパッケージを回収させられている。

ちくしょー!
こんなもの、こんなもの!!

俺は手に持ったAVのパッケージが急に憎らしくなって、思わず、ヤツらに投げつけて一矢報いてやろうかと思った。
が、気が触れたと思われるのも癪だったので、大人しくしていた。

すると、店員が後ろの女を見て、こう言った。

「すいませんが、女性は御入店いただけません」

俺は、心の中で小さくガッツポーズをした。

そうだ。良く言った!
カップルなど入店禁止だ!

俺なんて、周りの友人たちが次々と女性たちに“入店”していくのを尻目に、惚れたあらゆる女性から交渉の余地すらなく“入店禁止”を喰らっているのだ。

せめて、ビデオボックスくらい大人しく“入店”させてくれっていうんだ。

その際には、薄壁一枚の隣の部屋にカップルなどいらない。

俺は他の誰からも愛でてもらえない分、せめて静かに自分で愛でてやりたいのだ(キモイ発言だが。。)

そんな気持ちになった折のビデオボックスの店員の一言だ。わずかばかりに救われた。

が、そんな気持ちも束の間。

入店を断られた若者は、店員の言葉に残念がる様子もなく、一言、

「ああそうなんっすか」

と言って、背を向けた。

その刹那。

俺と若者の目が合った。

一瞬早く避けた俺の視線が、うかつにも背後の女の視線とも重なってしまった。

次の瞬間。

カップルは二人、顔を見合わせ、馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

その姿を見た俺は、
自分の手のなかにあるAVが、ズシリと重く身に染みたのを感じたのだ。。

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