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今日。
山手線に乗って家に帰ったのだが、
俺が乗った車両に、独りでブツブツと延々喋っている歳の頃60歳くらいのオヤジがいた。
まあ、良くいる壊れてしまった大人の一人だ。
それが、2駅たっても3駅たっても延々と何事か一人で何かに向かって話しかけている。
酒を呑んでいるとか、そういうのではなかったが、同じ車両にいた誰もが見て見ぬフリをしてやり過ごしていた・・・
・・・はずだったが、突然。
正面に座っていた男が、
「てめえ!一人でゴチャゴチャとうるせえんだよ!」
とキレた。
そして、壊れたオジさんの足下にあった鞄をボコンと音を立てて蹴り上げた。
「殴られたくなかったら黙ってろっ!!」
と叫ぶ男は歳の頃30歳くらい。オシャレなファッションでモテそうな男だった。
そうして、自分の席に戻ったが、当然のように壊れたおぢさんの言葉は止まらない。むしろ、
「ヤクザだ。ヤクザだ。お前はヤクザだ。暴力奮っちゃいけないんだ。俺は今から警察に行く。警視庁に言ってお前を捕まえてもらう。×××」
と、口から放たれる言葉の数々は増えるばかりで、その言葉はキレた男のほうに向かった。
周囲は、なおのこと見て見ぬふりだが、俺も含めて幾つもの好奇な視線が注がれるのに、バツが悪くなったのか、キレた男が再び立ち上がった。
コイツ、こんな終わってしまったおぢさんを殴って人生を棒に振るつもりか?
俺ははっきり言って、その場で止めれそうな連中の中で一番近い位置にいたが、ただワクワクしてガン見していた。
すると、一人、遠くのほうから仕事の出来なさそうなサラリーマンがやってきて、止めに入った。
キレた男は冷静だったが、止めた男は、なんと、あろうことか壊れたおぢさんに説教し始めた。
「おじさんも車内のマナーを守らなきゃダメだよ!そんなに喋ってたら怒る人だって出てくるから、気をつけなきゃダメだ。×××」
というような、恐ろしいくらいに、このおぢさんに何の意味も持たない説教文句だった。
当然、すでに壊れてるっちゅーのなおぢさんが、そんな言葉に耳を貸すわけもなく、
「ヤクザだ。ヤクザだ。お前らはヤクザだ。暴力奮っちゃいけないんだ。俺は今から警察に行く。警視庁に言ってお前らを捕まえてもらう。×××」
と、さっきから何度も口にしている同じことを、今度は複数形で語り出した。
周囲の声を代弁すると、ただ一言こうだ。
「面倒くせえ」
×××
壊れきったおじさんの無害な独り言にマジギレする男に、マジに説教する男。
この絵はホントに寒かった。。
というか。
俺は思った。
おぢさんが壊れて独り言を喋っているのはまあ、いいとしよう。
俺もそのうち仲間入りしかねないし、こんな世の中じゃ壊れる人間が出てくるのは当たり前だ。
が、しかしだ。
こういった人間にキレる男とは一体何なんだろうか。
いや、ホントに琴線に触れるところがあって、衝動的にキレたのなら分からないでもない。
しかしだ。
このときキレた大人の彼は、どこか計算してキレたような、そういった態度だった。まるで、自分の“キレ”によって、おじさんを黙らせることが出来るかのような、尊大なキレ方だった。
何故我慢出来ないの?
我慢出来ないなら、電車降りればいいじゃん。
わずか数分のロスがイヤなら車両移ればいいじゃん。
というのは当然のことにしても、
30数年生きてきて、こういった壊れてしまった人に対して、自分の了見の中で“ことが納まる”と思っていることが俺には信じられなかった。
キレたり、説教したりすることによって、何かを理解出来るような人間なら、人で溢れる電車の中で延々、独り言を喋ったりしないだろう。
そのくらいの想像力が、良い大人になっても得ることが出来ないものなのか。
そうして、周囲の好奇な視線のなか、
ここまで来たら、降りるに降りられないのか、
キレた男と、説教した男は、何故か慰め合うようにお互いを諌めていたが、
傍から見ると、ただひたすらバツが悪い時間だけが過ぎていった。
振り返ってみても、
ホントに寒々しく、理解に苦しむ出来事だった。