2008-07-31
バスが走る(乗客を置いて)
現在は東京に住んでいるのだが、実家がある東北は某県に向かうために、金欠の俺は高速バスを使うことが多い。
これが便利で、所要時間は30分くらいしか違わないのに特急電車を使うのと比べて、料金が半額くらいで済む。
この高速バス。行きも帰りも茨城の友部というサービスエリアで10分ほど休憩するのだが、先日そこで事件に遭遇した。
普通、休憩後の出発前に運転手が乗客の人数を確認するのだが、そのとき、とうに10分を過ぎていたからか、運転手は確認もせずにバスを発車させた。
ところが、俺がふと、窓の外を見ると、一人の若者(♂)がトイレのあたりから走ってバスのほうに向かってくる。
バスが加速し始めると、若者の顔つきと走る速度が変わった。
明らかにこのバスを追いかけてきている。
若者は迂闊にも置いていかれたバスの乗客のようだ。
俺は周りを見た。
この日のバスが空いていて定員のおよそ3分の1くらいでまばらに乗っていたためか、誰も他の乗客が一人欠けていることに気がついていない。
自分がいる席は最後列。
俺は、
運転手か前のほうの乗客が気がついて指摘するのだろう、と思って黙っていた。
ところが、バスが高速インターに入る最後の曲線に差し掛かっても、誰も見向きもしない。
お前ら馬鹿か!
ちょっと窓を見れば、一人の哀れな青年が、高速のパーキングでありえないほど全力疾走しているんだぞ!
運転手だって、サイドミラーをチラリと覗けば気がつくはずだ!
ところが、バスが右折してガソリンスタンドを横切り、高速の本線に入ろうかという瞬間になっても、俺以外の誰一人このあるまじき事実に気がついていない。
若者がどんどん離されていく。
そりゃそうだ。この時点でバスは時速60キロくらいは出ていたはずだ。
人間の足では人類最速のタイソン・ゲイだって追いつけない。
俺は、「面白いから放っておこう」という邪心を捨てて、叫んだ。
「すいません!誰か追いかけてきてますよっ!!」
バスが急停車した。
ドアが開き、安堵と困惑と恥辱と疲労を合わせた、何とも言えない表情で若者が乗って来た。
距離にしたら300メートルは命がけで全力疾走したことだろう。
運転手は、オタオタしながら、謝っている。
これ、通報されたら減給ものだと思う。
俺は、期せずして、一人の若者が、危うく東京でも目的地でもない中途半端な見知らぬ土地で荷物も載せたまま放置されるという、悲劇を救ったのだ。
「友部のシンドラー」と名付けられても過言ではないだろう。
それにしても、「もしかしたら」とは思いつつも、意外と遭遇しない、こういう事態。
やっぱり起こりえるんだ、と思って、以後バスを離れるのが怖くて仕方がなくなっている。

















